イナズマンF

イナズマンF(2) [DVD]
おれが今回見たのは昔発売されていたビデオの三巻。このビデオは比較的レアであまり見かけない。第20話「蝶とギロチン・花地獄作戦」第22話「ガイゼル至上命令イナズマンを抹殺せよ!」最終話「さらばイナズマン・ガイゼル最後の日」が収録されている。特撮作品上特に問題があるとされる「イナズマンF」の中でも、特に問題のあるエピソードが揃っている。
「蝶とギロチン・花地獄作戦」
現在では絶対に放送できないと思われる、人間の生首がころがり、血しぶきが舞い上がる恐ろしい子供番組。冒頭のインターポール捜査官荒井さんの生首が転がっている描写(荒井さんのタチの悪い悪戯だが・本当にタチが悪い)と「芥子ノ花ハ全テノ者ヲ狂ワセ死ニ至ラシメル地獄ノ花デアル」(ちょっと違うかも)というのからして正気とは思えないが、以降全編にわたってまるでアングラ演劇かニューシネマのような会話と描写が続く。そもそも芥子で危ないのは花じゃなくて実だとか、間違っている部分や根本的に様子がおかしい部分は多々あるが、この時代のTVドラマは特撮ものに限らず多かれ少なかれそういうものなのでそれは問題ではない。砂浜に倒れた何人もの人たちの首を切り落とし続けるギロチンデスパーの姿や(そのデザインはギロチンを中心に頭蓋骨が固まって、全身に返り血を浴びているというやばすぎるもので、放送禁止どころか怪獣図鑑に載せることすらあやぶまれる)ラストの「デスパー少年部隊」とガイゼルの会話などトラウマなどという次元ではない。へたなホラーよりよほど不快な描写である。当時としても明らかに子供番組の範疇を超えているが、かといってヒーロー番組以外でこの話を作れるかというと多分無理。当時のスタッフは、「大人にも鑑賞できる特撮番組」ではなく、「特撮番組の枠の中でしか作れない本物のドラマ」を作ろうとしていた。それは「イナズマンF」のみならず他の特撮番組、特にウルトラシリーズの一部のエピソードや「アイアンキング」「鉄人タイガーセブン」などの作品でも見られるが、このエピソードの場合は度を越して常軌を逸したものになってしまった。出来が悪いわけではない。むしろよすぎる。映像の完成度やセリフのあっちにいってしまった加減とか。ニューシネマの傑作。30分枠の子供番組でこんなのを作り上げたスタッフの正気を疑うが、当時の東映を知る人間からは「当時の東映は色んな意味で正気ではやってられなかった」という証言を聞くことが多いので、正気じゃなかったのかもしれない。
「ガイゼル至上命令イナズマンを抹殺せよ!」
牧れいタンがゲスト出演する点だけでも重要なエピソード。しかも生歌まで聞けるし、れいタンすごい歌うまい!なんでって言うくらい歌うまい。あれ本当に本人?わざわざ吹き替え使うとは思えないから本人か?その牧れいタンが主役であり、中盤彼女の行動がさっぱりわけわからなくてこいつ(ていうか脚本)気が狂っているのか?と思わせるが、最後になって全てのわけのわからない行動がつながるという脚本の巧さに舌を巻く。ニュルルル!インターポール秘密捜査官としての正義を守る立場と、ブラックデスパーの妹として兄のデスパー暗殺部隊のリーダーとしてのプライドを両方立てる手段としてはああするしかなかったのだ。ブラックデスパーの妹というのもすごいが、だがしかし彼女はそのためにもう一人の兄弟を平気で射殺している。あんなに兄思いなのに別の兄弟を殺すのは平気なのか。そんなできた妹を持ったブラックデスパーはデスパー軍団の暗殺部隊の隊長とは思えないほど弱いしいい人すぎる。普段はメキシコ人の格好をした日本人の姿をしているというのがまずわからないし、妹と荒井さんがもみあっているところになかなか銃弾を撃ち込めないでいる。やっと撃ち込んだと思ったら妹に当たって「ああっ!」て言うし。情無用のデスパー軍団なら怨敵・荒井さんを殺すチャンスなら迷わず妹ごと撃ち殺すべきではないのか。しかも外すしな。牧れい萌えの人なら迷わず見るべき傑作。ミニスカはあるけど残念ながらパンチラはないが。レッドバロンで死ぬほど見れるからここは生歌で我慢しろ。
「さらばイナズマン・ガイゼル最後の日」
ものすごく気持ち悪いエピソード。デスパーシティの描写は今となっては海の向こうのあの国を否が応でも連想させられるのはしょうがないが、問題はイナズマンがガイゼルの右目を攻撃すると、デスパーシティは幻のように消え去るのだ。その後無事ガイゼルを打ち破ったイナズマンと荒井さん親子の姿に「デスパーシティ五万市民は無事解放された!ありがとうイナズマン!さようならイナズマン!」というイナズマンを讃えるナレーションが入り、「イナズマンF」は完結となるわけだが、どう見ても「五万人の市民は無事解放された」ようには思えない。五万市民を含むデスパーシティやデスパー軍団やサデスパーや、ガイゼルの娘カレンでさえも、全てはガイゼルが超能力で作り上げた幻だったとしか思えないのだ。ナレーションはその暗黒の事実を隠蔽するために、無理矢理かぶせたもののように思えて、気持ち悪すぎる。たしかこれは本来そういう話だったのを、「問題がありすぎる」というので書き直したんだっけ?違ったっけ?いずれにしろ「イナズマンF」の最終回はあまりにも内容に問題がありすぎるので、書き直してることは確かだった気がする。ファンコレや大全にそのシナリオは載っていたはずだ。ファンコレは手放したし、大全は岩佐陽一が絡んでいる本は買いたくないので買ってないから、手元にないから確認できないが。シナリオを書き直した結果として、なおさらこの世界の暗黒性を隠蔽する人間社会の体質を表現したような気持ち悪い作品になってしまった希有な例。
総括的にはやはりこれは70年代特撮番組の中でも特殊な作品である。多かれ少なかれこの時期の特撮ものはそういうニューシネマ的な面を持ち合わせているが、中でも特別なのは「イナズマンF」「アイアンキング」「鉄人タイガーセブン」あたりであろうか。内容的にはへたな劇場映画よりよほど見ごたえがあったが、ライジンゴーが全然出てこなかったのは少し残念だった。おれライジンゴー好きなんですよ。
爆笑度     ☆☆☆
バイオレンス度 ☆☆☆☆
発狂度     ☆☆☆☆☆
怪奇度     ☆☆☆☆
男泣き度    ☆☆☆☆
↓またよろしく頼むわ♪
人気blogランキングへ